〔解説〕11月の大統領選挙に向けて、郵便投票が大きな争点になってきている。トランプ大統領により5月に郵政長官に任命されたルイス・デジョイ長官は一連の郵政サービス切り下げ改革を提案して、反発を買っている。レイバーノーツ9月号は郵政労働者の反抗の様子を伝えている。(レイバーネット日本国際部 山崎精一)
*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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デジョイ郵政長官が一歩後退〜メディアの批判、世論の抗議、労働者の抵抗の中で
アレキサンドラ・ブラッドベリー (レイバーノーツ編集長)
*デトロイトでの抗議行動「郵便局を守れ、選挙投票を守れ」
大統領選挙が間近に迫り、コロナウィルスのパンデミックによって郵便投票が求められている中で、ルイス・デジョイ新郵政長官による郵政サービスへの妨害行為が突然注目を集めている。
デジョイ長官は圧力に押され、8月18日、11月の選挙後まで事業見直しを一時停止すると発表した。しかし、それが見直しの撤回を意味するか、あるいはマスコミの追及が弱まるまで先延ばしを意味するのか、はっきりしない。
デジョイ長官は7月10日、残業時間を制限し、スピードアップを図るための「事業見直し」を発表していた。見直しにより、郵便が仕分けできず取り残しがあっても、郵便トラックは仕分けセンターを定刻に出発し、配達労働者は定刻に郵便局から配達に出発することになっていた。
郵便物の滞貨は一時的なものなので、「遅延の根本原因に対処し、翌日には対処する」といする文書が出された。しかし、郵便局員によると、現実は逆だという。日を追うごとに取り残された郵便物は悪化の一途をたどっている。この新しい政策の適用は混沌としており、郵便局の管理者にはほとんど指示がなく、労働者と同じように不満を抱いている者もいる。
郵便労働者組合(APWU)のボルティモア・ローカルの組織部長コートニー・ジェンキンスさんは、「私たちは危険な作業でない限り、指示に従わないことはできない。」と語る。「郵便物の配達を遅らせたり妨害したりすることは違法であり、公務員になる際に法に従うと宣誓している。だから今、矛盾した立場に置かれている」。
アメリカ郵政公社USPSはまた、仕分けセンターの処理機を減らしたり、街角から青い郵便ポストを撤去したりして怒りを買っている。郵便の量が減っていることを理由としているが、コロナウイルスの影響はおそらく一時的なものだし、選挙時期の郵便の急増が予想されているので、この理由は当たらない。
先週末にはデジョイ長官の両方の家に抗議デモが行き、8月22日と25日には全国の郵便局の外でより多くの抗議が計画されている。
●ノーの声を上げる
デジョイ長官が方針変更したことは圧力が効いていることを示している。さらに強く闘い、あきらめるな、という合図だ。世論が注目しただけでなく、労働者が反抗したことが方針変更をもたらした。
郵便物の仕分け機は巨大で、長さは少なくとも20メートルにもなる。一人は郵便物を投入し、もう一人は仕分けされた郵便物を急いで集めなければならない。二人は、重いラックを移動させながら、次の投入の準備作業を一緒にしなければならない。
アイオワ州ウォータールーの郵便局の管理者は、残業をせず郵便トラックも定刻どおり運行する、という新しい指示を、従業員はより速く働かなければならない、と解釈した。そこで次の郵便物の投入を早く開始できるように、投入の準備作業を一人でやるよう要求し始めた。
「できることはできますが、安全にはできません」とアイオワAPWU会長である事務職員のキンバリー・カロールさんは語る。「このような命令は、郵政長官が無駄と考えるものを排除するために、恣意的な決定を下した結果です。しかし、トラックを出すために決められた時間内に郵便物を処理するための人員を確保できなければ、それは無駄ではありません」。
だから彼女は仲間に「ノー」と言うように励ましている。「自分が快適なスピードで、安全に作業できるように間隔をあけて作業すべきです。その結果処分を受けても名誉だと思うべきです。抗議デモで逮捕されるのと同じです。」と彼女は言う。
これまでのところ、彼女の職場の労働者は一致団結してスピードアップに抵抗しており、彼女の知る限りでは誰も懲戒処分を受けていないと言う。
「経営者はよく処分の脅しを掛けてきますが、それが実行されることはほとんどありません。この状況では、労働協約上の根拠がないので、処分できるとは思えません。ハッタリに過ぎません。」
ジェンキンスさんはまた、郵便局の窓口係と郵便配達員の安全性を心配している。処方箋や給与明細書の配達が遅れたときに顧客の怒りの矛先を向けられる存在だからである。そこでジェンキンスさんは、各所に正副の代表を配置して、組合員間の通信ネットワークを構築している。郵便物の配送が遅れている場合に仕分けセンターの労働者は、郵便局の窓口労働者に連絡を入れて、遅れている理由を顧客に伝えることができる。
このようなチームワークは、組織化のための良い出発点となる。「それは組合員を強化するものです」とジェンキンスさんは言う。このような取り組みに参加した組合員は、次の組合行事に参加したり、連邦議会に手紙を書いたりする可能性も高くなるとジェンキンスは考えている。
●危機に次ぐ危機
郵政労働者は、いくつかの危機の波に見舞われてきた。何年もの間、議会に対して、退職者の健康保険を75年先まで積み立てることを要求した2006年の法律を廃止するよう求めてきた。そのために郵政事業が赤字になり、事業見直しと民営化の口実にされてきたからである。
さらに、コロナウイルスにより郵便の量が一時的に減っているので、USPSは250億ドルの救済を直ちに必要としている。下院はそのような法案を可決したが、上院はこれまでのところ拒否している。
そして最後は、6月に就任したデジョイ長官である。トランプ大統領の取り巻きで、USPSの競合会社の1つである民間物流会社XPOの株をまだ所有している。長官の更迭を要求する。
*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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デジョイ郵政長官が一歩後退〜メディアの批判、世論の抗議、労働者の抵抗の中で
アレキサンドラ・ブラッドベリー (レイバーノーツ編集長)
*デトロイトでの抗議行動「郵便局を守れ、選挙投票を守れ」
大統領選挙が間近に迫り、コロナウィルスのパンデミックによって郵便投票が求められている中で、ルイス・デジョイ新郵政長官による郵政サービスへの妨害行為が突然注目を集めている。
デジョイ長官は圧力に押され、8月18日、11月の選挙後まで事業見直しを一時停止すると発表した。しかし、それが見直しの撤回を意味するか、あるいはマスコミの追及が弱まるまで先延ばしを意味するのか、はっきりしない。
デジョイ長官は7月10日、残業時間を制限し、スピードアップを図るための「事業見直し」を発表していた。見直しにより、郵便が仕分けできず取り残しがあっても、郵便トラックは仕分けセンターを定刻に出発し、配達労働者は定刻に郵便局から配達に出発することになっていた。
郵便物の滞貨は一時的なものなので、「遅延の根本原因に対処し、翌日には対処する」といする文書が出された。しかし、郵便局員によると、現実は逆だという。日を追うごとに取り残された郵便物は悪化の一途をたどっている。この新しい政策の適用は混沌としており、郵便局の管理者にはほとんど指示がなく、労働者と同じように不満を抱いている者もいる。
郵便労働者組合(APWU)のボルティモア・ローカルの組織部長コートニー・ジェンキンスさんは、「私たちは危険な作業でない限り、指示に従わないことはできない。」と語る。「郵便物の配達を遅らせたり妨害したりすることは違法であり、公務員になる際に法に従うと宣誓している。だから今、矛盾した立場に置かれている」。
アメリカ郵政公社USPSはまた、仕分けセンターの処理機を減らしたり、街角から青い郵便ポストを撤去したりして怒りを買っている。郵便の量が減っていることを理由としているが、コロナウイルスの影響はおそらく一時的なものだし、選挙時期の郵便の急増が予想されているので、この理由は当たらない。
先週末にはデジョイ長官の両方の家に抗議デモが行き、8月22日と25日には全国の郵便局の外でより多くの抗議が計画されている。
●ノーの声を上げる
デジョイ長官が方針変更したことは圧力が効いていることを示している。さらに強く闘い、あきらめるな、という合図だ。世論が注目しただけでなく、労働者が反抗したことが方針変更をもたらした。
郵便物の仕分け機は巨大で、長さは少なくとも20メートルにもなる。一人は郵便物を投入し、もう一人は仕分けされた郵便物を急いで集めなければならない。二人は、重いラックを移動させながら、次の投入の準備作業を一緒にしなければならない。
アイオワ州ウォータールーの郵便局の管理者は、残業をせず郵便トラックも定刻どおり運行する、という新しい指示を、従業員はより速く働かなければならない、と解釈した。そこで次の郵便物の投入を早く開始できるように、投入の準備作業を一人でやるよう要求し始めた。
「できることはできますが、安全にはできません」とアイオワAPWU会長である事務職員のキンバリー・カロールさんは語る。「このような命令は、郵政長官が無駄と考えるものを排除するために、恣意的な決定を下した結果です。しかし、トラックを出すために決められた時間内に郵便物を処理するための人員を確保できなければ、それは無駄ではありません」。
だから彼女は仲間に「ノー」と言うように励ましている。「自分が快適なスピードで、安全に作業できるように間隔をあけて作業すべきです。その結果処分を受けても名誉だと思うべきです。抗議デモで逮捕されるのと同じです。」と彼女は言う。
これまでのところ、彼女の職場の労働者は一致団結してスピードアップに抵抗しており、彼女の知る限りでは誰も懲戒処分を受けていないと言う。
「経営者はよく処分の脅しを掛けてきますが、それが実行されることはほとんどありません。この状況では、労働協約上の根拠がないので、処分できるとは思えません。ハッタリに過ぎません。」
ジェンキンスさんはまた、郵便局の窓口係と郵便配達員の安全性を心配している。処方箋や給与明細書の配達が遅れたときに顧客の怒りの矛先を向けられる存在だからである。そこでジェンキンスさんは、各所に正副の代表を配置して、組合員間の通信ネットワークを構築している。郵便物の配送が遅れている場合に仕分けセンターの労働者は、郵便局の窓口労働者に連絡を入れて、遅れている理由を顧客に伝えることができる。
このようなチームワークは、組織化のための良い出発点となる。「それは組合員を強化するものです」とジェンキンスさんは言う。このような取り組みに参加した組合員は、次の組合行事に参加したり、連邦議会に手紙を書いたりする可能性も高くなるとジェンキンスは考えている。
●危機に次ぐ危機
郵政労働者は、いくつかの危機の波に見舞われてきた。何年もの間、議会に対して、退職者の健康保険を75年先まで積み立てることを要求した2006年の法律を廃止するよう求めてきた。そのために郵政事業が赤字になり、事業見直しと民営化の口実にされてきたからである。
さらに、コロナウイルスにより郵便の量が一時的に減っているので、USPSは250億ドルの救済を直ちに必要としている。下院はそのような法案を可決したが、上院はこれまでのところ拒否している。
そして最後は、6月に就任したデジョイ長官である。トランプ大統領の取り巻きで、USPSの競合会社の1つである民間物流会社XPOの株をまだ所有している。長官の更迭を要求する。