四月の詩(三) 鰈釣り(少し推敲)
風がぱったり止むと
鰈を釣る人の姿もじんわりと汗ばみ
蜃気楼の中の追い水の同族かと思えてくる
どこまでも遠浅の海の前では
水平線に向かって目いっぱい
釣り餌を投げては手繰り寄せの繰り返し
遠浅から波飛沫をたて引き寄せられてくる
砂まみれの鰈のほのかな流星少女紋様
流木に立てかけた竿が
祭りでの走馬灯のように風に鳴る
漂流物の記憶の狭間では
シュレディンガーの子猫たちがじゃれ合っている
入り江のすみずみに対岸の灯がこぼれ
夏の星座がギシギシ波止場に砕ける
その舟音で連想するのはいつも
北極星さえ別な星になるという数万年単位の歳差運動
四月の詩(4) ガヤ(メバル)と遊んだ最後の夏
その夏が
ふるさとの海で遊んだ最後の夏だった
ぷかぷか海面に浮いていた最後の遊泳
それに飽きると
水中眼鏡でガヤ(メバル)を観察だった最後の夏
けれども
きみが溺死した海ではもう二度と泳ぐことも
まともに海を見ることもできなかった
海への途中で出会った同級の娘が
「お盆には仏さんが多いので海へは行かない方がいいよ」
「そんなの迷信迷信」とてんで取り合わないぼくが
きみを溺死させた張本人
北海道のガヤは好奇心が強い
「猫またぎ」と侮蔑される魚で
無関心を装いながら
寄ってくる姿はとぼけていて憎めない
こっちを斜めに見ながら
人間などどこ吹く風かといった風情
水中眼鏡の世界では
媚びや邪心も必要ないので
ガヤもぼくもてんでに
潮に流されてゆくばかり
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魚の詩三題 ガヤ(メバル) 鰈 泥鰌
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