新しい風にはいつも
新しい匂いと手触りがある
この国の山野が破壊しつくされ
どこもかしこも放射能だらけというのに
似た郷愁をだが
はるかに魅力的と見せかけるのは
大量消費のためのいつもの資本主義のやり口
単に少し早いとか少し安いとか
そうとうに厚化粧というだけなのに
春の風は希望と一緒に
馬車に乗ってやってくる
つんと鼻にくる潮風
あちこち転がる馬糞の山の中を
馬車どころか
馬を見かけるのは早朝の馬術クラブくらいになり
いまやラジオやテレビでお馴染になった
通販での馬肉の刺身や加工品や缶詰
一度社会から「役立たず」の烙印を押されると
もう誰からも相手にされず
抹殺されるのを待つだけの人生
競馬で落ちこぼれると馬を待つのも
屠殺場行きと食肉の運命
まれに種付け料数百万円とやり放題の幸運な馬もいるけど
馬という馬はぼくのように
北海道の牧場のある方を懐かしんでいななく
生まれたばかりの数万の風
葉脈を梳きながらやってくる風に頬擦りしたくなる
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古い短詩(3) 「春の風」
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