紙の上 山之口貘
戦争が起きあがると
飛び立つ鳥のように
日の丸の翅をおしひろげそこからみんな飛び立つた
一匹の詩人が紙の上にゐて
群れ飛ぶ日の丸を見あげては
だだ
だだ と叫んでゐ
発育不全の短い足 へこんだ腹 持ちあがらないでっかい頭
さえづる兵器の群れをながめては
だだ
だだ と叫んでゐる
だだ
だだ と叫んでゐるが
いつになつたら「戦争」が言えるのか
不便な肉体
どもる思想
まるで砂漠にゐるようだ
インクに渇いたのどをかきむしり熱砂の上にすねかへる
その一匹の大きな舌足らず
だだ
だだ と叫んでは
飛び立つ兵器をうちながめ
群れ飛ぶ日の丸を見あげては
だだ
だだ と叫んでゐる
*これほどの反戦詩があるだろうか・・
詳しくは『検閲逃れた反戦の叫び 山之口貘の傑作詩「紙の上」』ー『ここ』