16歳の春ぼくは地図を失った
都会の片隅の映画館で観たのが
中上健次原作の「19歳の地図」
ぼくの長い放浪の始まりだった
人っこ一人通らないゴミだらけの裏道をとぼとぼ
俺のふるさとはもう無くなってしまったんだなと
廃線のためもうその頃は
熊しか棲まなくなってしまったふるさとだった
ぼくだけの地図上には
もうあらかた忘れてしまった
アイヌ語の地名がびっしり
「鹿を追い落とす断崖」の上の白い給水塔で
渦巻く水色を見つめていたっけ
気がつくともう山も海も
夕焼けに染まって給水塔の影がながなが
秋には煙茸をわざわざ踏みつけて
「影の無い沼」へのほの暗い森の道で
いつも釣りに誘ってくれた智恵遅れのM君と
釣り竿を担いで歩いた森の小道
冬の牛乳配達の途中には
降り積もった白樺並木の坂道で
はしゃぎながら尻滑りした牧場への道
春にはその道の桜満開の下で
初めてきみと話すことができた
「何処へ行くの」
「これから山に登るんだ」
道端で揺れていたのは
まるできみそっくりの一輪の白百合の花
都会の片隅の映画館で観たのが
中上健次原作の「19歳の地図」
ぼくの長い放浪の始まりだった
人っこ一人通らないゴミだらけの裏道をとぼとぼ
俺のふるさとはもう無くなってしまったんだなと
廃線のためもうその頃は
熊しか棲まなくなってしまったふるさとだった
ぼくだけの地図上には
もうあらかた忘れてしまった
アイヌ語の地名がびっしり
「鹿を追い落とす断崖」の上の白い給水塔で
渦巻く水色を見つめていたっけ
気がつくともう山も海も
夕焼けに染まって給水塔の影がながなが
秋には煙茸をわざわざ踏みつけて
「影の無い沼」へのほの暗い森の道で
いつも釣りに誘ってくれた智恵遅れのM君と
釣り竿を担いで歩いた森の小道
冬の牛乳配達の途中には
降り積もった白樺並木の坂道で
はしゃぎながら尻滑りした牧場への道
春にはその道の桜満開の下で
初めてきみと話すことができた
「何処へ行くの」
「これから山に登るんだ」
道端で揺れていたのは
まるできみそっくりの一輪の白百合の花