Quantcast
Viewing all articles
Browse latest Browse all 5481

  詩  古いナイフ

雨上がりの空にすてきな虹が架かる朝には
朝露に濡れそぼりながら旅にでかけたくなる

ナイフだけを握りしめて
廃線の果てからやってきたあの朝みたいに

きみから贈られた赤い万能ナイフ
いつも水底で輝く小石を思い出させるナイフ

これで何度ビールの栓を抜き
貧しい夕餉の缶詰を開けたことだろう
遠い空のしたのきみを想いながら

きみを見舞った夕暮れの樹影に向かって
林檎を片手に「最後まで切らずに皮をむけるんだよ」と

きみの死からもう十年数年も経つというのに
いよいよひんやりと色褪せることのないナイフ

きらり きらきらと
まるで水の中の横たわる小石のように思いで一杯のナイフ

このナイフだけを片手に故郷に帰ろうか
廃線の果てにはもう誰も待つ人などいないのに

Viewing all articles
Browse latest Browse all 5481

Trending Articles