太宰治のために
すっかりそのイメージが汚されてしまった桜桃だけど
北海道の開拓農家を尋ねると
桜桃をはじめ多くの果樹が植えられている
ぼくの祖父母の家にも
泉を取り囲んで四本もの桜桃の大木が
いつもあるかなしかの風にそよいでいた
春になると一家そろって
地には真っ赤な桜桃の実にため息をつく
「父さん町で売れんのだべか」
「どの家にも植えてるので誰も買わんべさ」
食べるのを忘れていつまでも
家族そろって立ち尽くし見上げていた桜桃の大木
熊さんたち野生動物には
開拓者たちがやった唯一の良いことかもしれない
今では廃線の彼方の故郷を思い出すたびに
そう思うことにしている
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二月の詩(2) 桜桃
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