まだ行ったことのない
国境からの風があわあわと吹き下り
急峻な山並みへと陽が落ちてゆく
「お元気ですか」と
書いて送る相手もいないのに
書いて送りたくなる晩夏の窓には
ヒメジョンや麒麟草が窓半分を覆う
ぼくはもう
海をさえ思い浮かべることができない
思い浮かぶのはただ二本のレールを走り抜けてゆく
深夜のドーベルマンのような♂と♀
きみが教えてくれたアマチア無線を生かすことができなかった
深夜にせいぜい
「ハローCQ ハローCQ そっちの世界はどうですか」と虚空に向かって叫ぶだけ
「ハローCQ ハローCQ どっちの世界も原発事故やらでたいへんそうだね」
坂口安吾のように
何があろうと生きる事が勇気なのだと思う
この世の悲惨さを書き残すのが
自分の存在証明なのだと決めた
↧
ハローCQ ハローCQ お元気ですか
↧