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〔週刊 本の発見〕「おかしい」と声を上げる移民の仲間たち~『国家と移民』

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毎木曜掲載・第169回(2020/8/27)
「おかしい」と声を上げる移民の仲間たち
『国家と移民—外国人労働者と日本の未来』(鳥井一平、集英社新書、2020年6月)評者 : 松本浩美

 著者の鳥井一平さんが代表を務めるNGO「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)では、コロナ禍によって生活困窮した移民、難民、外国ルーツの人たちに対して支援金を給付するプロジェクトを展開中だ(8月25日現在。寄付は8月で終了)。

 生活困窮するタイプの一つは、在留資格のない「不法」滞在者である。就労不可、社会保障制度からも排除。今回の特別定額給付金10万円は支給されず、どんなに困窮しても生活保護は利用できない。

 在留資格のない外国人がなぜ日本にいるのか。どのような歴史を歩んできたのか。その記録が本書では重要な要素になっている。彼らが来日したのは、今から30年前バブル真っ盛りの頃。成田空港を降りると町工場を尋ね、直接雇ってもらっていたという。観光ビザが切れてオーバーステイ(超過滞在)の状態になっても、働き続けた。こなしきれないほどの仕事があったからだ。だから、警察が路上で職務質問して連行すると、交番には工場の社長が駆け込んできて「今連れていかれたら困る! 工場が止まっちゃうんです」というと放免になった。こうして言葉と技術を覚えた彼らは熟練労働者となり、中小零細の3K職場を支える存在となった。1993年にはオーバーステイの外国人は約30万人にも達した(2019年1月1日現在は7万4167人と1/4以下に減少)。

 しかし、その後外国人労働者を南米系日系人、技能実習生、留学生へとシフト、オーバーステイ外国人は排除されていく。さらに、実態は労働者なのに、南米日系人の場合は「親族訪問」、技能実習生は「技術移転」「国際貢献」、留学生は「勉強」と目的を偽装したいびつな移民制度を作り上げた。しかも、技能実習生の場合、家族の帯同不可、妊娠・出産原則禁止という、労働力としてしか存在が許されていない。それが証拠に2012年自民党が安倍政権に返り咲くと、これまでの「外国人労働者」という言葉が「外国人材」へと変わった。ほしいのは「人」ではなく「モノ」なのだ。


*著者。会見で外国人労働者問題を訴える

 本書では人権侵害の実態も描かれているが、それとともに交渉によって勝ち取った権利についても紹介されている。例えば、2001年某大手居酒屋チェーンが、全従業員に過去2年間の未払い残業代38億円を支払ったケース。この運動の背景には、解雇されそうになったオーバーステイ外国人の闘いがあった。

 鳥井さんにとってオーバーステイ外国人はかわいそうなだけの存在ではない。そのSOSによって劣悪な労働環境があぶりだされた。そして、自らの権利への侵害に対して「それはおかしい」と声をあげた。彼彼女らは仲間である。それが「移民」とはどんな存在かという答えにつながる。

 最後に、昨年夏、過熱する嫌韓報道に対して、移住連などが抗議声明を出した。その際の記者会見における鳥井さんの言葉を紹介する。「徴用工は使い捨ての労働力だ。日本では、日本人以外のマイノリティに対して、使い捨て労働力としか見ていない歴史が続いている。徴用工問題は労働問題でもあるのに、報道では、日本企業に対して補償を求めたことが『反日』で、日本企業を擁護することが日本の利益になるという雰囲気だ。しかし、徴用工の権利を否定することは、労働者の権利を否定すること。個人の請求権は消えないというのが現在の国際法の考えだ」。

 大法院判決に出てくる原告の被害は、今日の技能実習生のそれと重なる。「外国人やマイノリティは使い捨てOK」という発想は、ヘイトスピーチや排外主義を野放しにしている社会のありようとつながっているのだ。

 コロナ禍の現在、国は在留資格のない外国人やホームレスを見捨てようとしている。放置すれば死んでしまうのに。圧倒的な現実の前に時に押しつぶされそうになるが、「そんなことはさせないぞ」と前向きになれる本であった。

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