http://www.labornetjp.org/news/2020/0704inyaku
「グリーン・ニューディール」が語られ始めた!〜都知事選の新しい芽
印鑰 智哉(いんやくともや)
明日(7/5)は都知事選。今回の選挙、一度もテレビ討論もされず、候補者の政策がどう違うのか、明らかにされる機会も確保されず、この間の都政の問題の検証に関する報道も目にすることがなかった。築地市場問題やオリンピックという今後100年間の東京を考えた時に巨大な問題を受けて行われる都知事選を、マスメディア上では小池都政の検証なしに、投票日を迎えるという事態になってしまったことを後世の人たちはどう見るだろうか? その責任は現知事の小池百合子氏とマスメディアにある。
巨大な負債を残すものとなった、と嘆きたくなるけれども、それでもいくつか希望を持てる新しい芽を見出すことができる。
その1つは宇都宮けんじ氏が「グリーン・リカバリー」を大きく打ち出したことだ(1)。グリーン・リカバリーとは新型コロナウイルスによる被害から復興の際に、元の世界に戻るのではなく、現在世界で大きな声になりつつあるグリーン・ニューディールに基づくグリーンな(破壊的でない)回復をめざすもの。
新型コロナウイルスの発生源はいまだに論争の的になっているが、感染症の脅威が上がっている背景には生態系の破壊と気候変動の激化が確実にある。破壊的な生産を変えない限り、その脅威は減ることはない。復興からの回復が、さらなる脅威を強めることになるのであれば本当の意味の復興にはならないし、気候変動の激化による災害の危険は目の前にある。
特にグリーン・ニューディールで特筆すべきことは、個別の問題を個別に扱うことを超えて、総合的な取り組みを提起することだ。社会のあり方、生産のあり方そのものを変えることによって、福祉や雇用だけでなく、自然環境を破壊する生産のあり方、人びとの関係をも変えていく。いわば社会のパラダイムを変える大きな政策になっている。
かつての世界恐慌で米国はニューディール政策を選択した。たとえば、恐慌で売り先を失った農家の生産物をすべて政府が買い上げることを保障し、農家は生産を再開、こうして米国は恐慌を乗り切る。軍事産業に巨大な投資をして、やがて敗戦ですべてを失った日本とは好対照の選択となった。
米国のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員らが米国の中心政策としてグリーン・ニューディールを昨年掲げたが、トータルな変革を可能にする歴史を画する政策であるとして、あっという間に世界中に拡がり、EU版グリーン・ニューディール、韓国版グリーン・ニューディールなどへ具体化されていった。ラテンアメリカやアフリカにも拡がっている。そして、その中で新型コロナウイルスの蔓延という事態になる。世界恐慌とも似た状況、社会が止まる事態に世界は直面し、ニューディール的政策の必要性に対する認識が急速に高まった。国が介入することで社会のシステムを変えなければ、このままでは人類的な危機になることが明らかになっている。
お隣の韓国ではグリーン・ニューディールは政策に取り入れられているのに、日本では関心を持ってもらうのも難しい。それが今、都知事選の選挙の中で堂々と語られるようになった。これは大きな獲得物だと思う。宇都宮氏だけでなく、山本太郎氏もグリーン・ニューディールを採用すると言っている(2)。今後、日本の政治の中でもグリーン・ニューディールは無視できない政策となったと言えるだろう。
しかし、宇都宮氏も山本氏もこのグリーン・ニューディールをどう捉えているのか、残念ながら公表されているマニフェストからは十分伝わってこない。グリーン・ニューディールは単なる気候変動対策でも経済政策にとどまるものではない。そのトータルな政策論としてのグリーン・ニューディール政策が語られているにはまだ遠い。本来、グリー・ニューディールで大きな軸となる食や農について2人の政策論でどう位置づけられているだろうか?
2人とも共通して、学校給食の有機化を進める、宇都宮氏はさらに学校給食の無償化に言及する(無償化はとても重要。すでに4.4%の自治体で小中学校の学校給食は無償化、24.4%で一部無償化されている[3])。都市農業を盛んにすることにも触れている。しかし、それらは貧困対策の中で語られていたり、気候変動問題への対処として語られ、食の政策として主題となっていない。
「東京は都市なのだから当たり前」ということではすまされない。もし、外からの食料供給が止まったら何が起こるか? 東京の食料自給率はわずか1%に過ぎない。お隣の神奈川は2%、埼玉も10%。供給が止まったら、膨大な数の人びとが飢える。これが東京首都圏の現実。これが欠けているのが東京の根幹問題ではないのか? 遺伝子組み換えも「ゲノム編集」も語られないし、農薬問題も語られていない。本来は大々問題である。
学校給食の有機化は今後の選挙でも不可欠な政策課題の1つに入っていくことになるだろうし、それを掲げたことは大いに評価できることなのだけれども、果たしてそのために何が必要か検討が必要だろう。
有機作物を生産できる状況を作らなければ膨大な数の子どもたちに有機食は提供できない。どうやったらそれを実現できるか? 生産してくれる農家はどう増やしていけるのか、有機生産する田畑はどこに確保できるのか、東京都内では不可能であり、実現のためには自治体間提携が必要だろう。どこの自治体と提携できるのか? 自治体間提携を増やしていけば広域での食料自給率が上がることは期待できるし、有機農業の拡大は気候変動対策にも自然災害対策にも環境政策にもなりうる。
個々の政策の寄せ集めではすまないトータルな政策であるグリーン・ニューディールが必要なのはこのようにすべては連関するからだ。重箱の隅をつついているように思われるかもしれないが、衣食住は人権の基礎であり、これが政策のど真ん中で語られないのはやはり問題だと思う。
明日の結果に関わらず、宇都宮けんじ氏が提案するグリーン・リカバリー/グリーン・ニューディールは東京都に採用を求めていく必要がある。重要な政策を候補者の中で表明してくれた宇都宮氏と山本太郎氏には敬意を表したい。そして、今後、もっと発展させて、日本に必要な政策へと発展させていきたい。
(1) http://utsunomiyakenji.com/policy/introduction
(2) https://taro-yamamoto.tokyo/policy/
(3) 文科省調査 https://www.mext.go.jp/…/afiel…/2018/07/27/1407564_001_1.pdf
「グリーン・ニューディール」が語られ始めた!〜都知事選の新しい芽
印鑰 智哉(いんやくともや)
明日(7/5)は都知事選。今回の選挙、一度もテレビ討論もされず、候補者の政策がどう違うのか、明らかにされる機会も確保されず、この間の都政の問題の検証に関する報道も目にすることがなかった。築地市場問題やオリンピックという今後100年間の東京を考えた時に巨大な問題を受けて行われる都知事選を、マスメディア上では小池都政の検証なしに、投票日を迎えるという事態になってしまったことを後世の人たちはどう見るだろうか? その責任は現知事の小池百合子氏とマスメディアにある。
巨大な負債を残すものとなった、と嘆きたくなるけれども、それでもいくつか希望を持てる新しい芽を見出すことができる。
その1つは宇都宮けんじ氏が「グリーン・リカバリー」を大きく打ち出したことだ(1)。グリーン・リカバリーとは新型コロナウイルスによる被害から復興の際に、元の世界に戻るのではなく、現在世界で大きな声になりつつあるグリーン・ニューディールに基づくグリーンな(破壊的でない)回復をめざすもの。
新型コロナウイルスの発生源はいまだに論争の的になっているが、感染症の脅威が上がっている背景には生態系の破壊と気候変動の激化が確実にある。破壊的な生産を変えない限り、その脅威は減ることはない。復興からの回復が、さらなる脅威を強めることになるのであれば本当の意味の復興にはならないし、気候変動の激化による災害の危険は目の前にある。
特にグリーン・ニューディールで特筆すべきことは、個別の問題を個別に扱うことを超えて、総合的な取り組みを提起することだ。社会のあり方、生産のあり方そのものを変えることによって、福祉や雇用だけでなく、自然環境を破壊する生産のあり方、人びとの関係をも変えていく。いわば社会のパラダイムを変える大きな政策になっている。
かつての世界恐慌で米国はニューディール政策を選択した。たとえば、恐慌で売り先を失った農家の生産物をすべて政府が買い上げることを保障し、農家は生産を再開、こうして米国は恐慌を乗り切る。軍事産業に巨大な投資をして、やがて敗戦ですべてを失った日本とは好対照の選択となった。
米国のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員らが米国の中心政策としてグリーン・ニューディールを昨年掲げたが、トータルな変革を可能にする歴史を画する政策であるとして、あっという間に世界中に拡がり、EU版グリーン・ニューディール、韓国版グリーン・ニューディールなどへ具体化されていった。ラテンアメリカやアフリカにも拡がっている。そして、その中で新型コロナウイルスの蔓延という事態になる。世界恐慌とも似た状況、社会が止まる事態に世界は直面し、ニューディール的政策の必要性に対する認識が急速に高まった。国が介入することで社会のシステムを変えなければ、このままでは人類的な危機になることが明らかになっている。
お隣の韓国ではグリーン・ニューディールは政策に取り入れられているのに、日本では関心を持ってもらうのも難しい。それが今、都知事選の選挙の中で堂々と語られるようになった。これは大きな獲得物だと思う。宇都宮氏だけでなく、山本太郎氏もグリーン・ニューディールを採用すると言っている(2)。今後、日本の政治の中でもグリーン・ニューディールは無視できない政策となったと言えるだろう。
しかし、宇都宮氏も山本氏もこのグリーン・ニューディールをどう捉えているのか、残念ながら公表されているマニフェストからは十分伝わってこない。グリーン・ニューディールは単なる気候変動対策でも経済政策にとどまるものではない。そのトータルな政策論としてのグリーン・ニューディール政策が語られているにはまだ遠い。本来、グリー・ニューディールで大きな軸となる食や農について2人の政策論でどう位置づけられているだろうか?
2人とも共通して、学校給食の有機化を進める、宇都宮氏はさらに学校給食の無償化に言及する(無償化はとても重要。すでに4.4%の自治体で小中学校の学校給食は無償化、24.4%で一部無償化されている[3])。都市農業を盛んにすることにも触れている。しかし、それらは貧困対策の中で語られていたり、気候変動問題への対処として語られ、食の政策として主題となっていない。
「東京は都市なのだから当たり前」ということではすまされない。もし、外からの食料供給が止まったら何が起こるか? 東京の食料自給率はわずか1%に過ぎない。お隣の神奈川は2%、埼玉も10%。供給が止まったら、膨大な数の人びとが飢える。これが東京首都圏の現実。これが欠けているのが東京の根幹問題ではないのか? 遺伝子組み換えも「ゲノム編集」も語られないし、農薬問題も語られていない。本来は大々問題である。
学校給食の有機化は今後の選挙でも不可欠な政策課題の1つに入っていくことになるだろうし、それを掲げたことは大いに評価できることなのだけれども、果たしてそのために何が必要か検討が必要だろう。
有機作物を生産できる状況を作らなければ膨大な数の子どもたちに有機食は提供できない。どうやったらそれを実現できるか? 生産してくれる農家はどう増やしていけるのか、有機生産する田畑はどこに確保できるのか、東京都内では不可能であり、実現のためには自治体間提携が必要だろう。どこの自治体と提携できるのか? 自治体間提携を増やしていけば広域での食料自給率が上がることは期待できるし、有機農業の拡大は気候変動対策にも自然災害対策にも環境政策にもなりうる。
個々の政策の寄せ集めではすまないトータルな政策であるグリーン・ニューディールが必要なのはこのようにすべては連関するからだ。重箱の隅をつついているように思われるかもしれないが、衣食住は人権の基礎であり、これが政策のど真ん中で語られないのはやはり問題だと思う。
明日の結果に関わらず、宇都宮けんじ氏が提案するグリーン・リカバリー/グリーン・ニューディールは東京都に採用を求めていく必要がある。重要な政策を候補者の中で表明してくれた宇都宮氏と山本太郎氏には敬意を表したい。そして、今後、もっと発展させて、日本に必要な政策へと発展させていきたい。
(1) http://utsunomiyakenji.com/policy/introduction
(2) https://taro-yamamoto.tokyo/policy/
(3) 文科省調査 https://www.mext.go.jp/…/afiel…/2018/07/27/1407564_001_1.pdf