〔解説〕5月25日のジョージ・フロイドさん殺害事件以来、警察の人種差別に対する抗議活動が全米で展開されている。警察の予算削減や解体までが提起され、市議会で議論されている。警官による黒人差別や虐待の背景に警官の労働組合の存在があることは日本ではあまり知られていない。
警官は消防と並んで組織率が最も高い職種であり、その労働組合は様々な産別組合にも属しており、労働組合全体に大きな力を持っている。警官の労働組合はこれまでも一貫して加害警察官を守り、その処分に反対してきた。そのため労働組合全体は警官の人種差別に厳しい姿勢を取れないできた。しかし、今回は労働組合の中にも警官組合を批判する声が広がってきている。ワシントン州シアトルでは地域労働組合評議会が警官の労働組合を6月17日に除名した。(レイバーネット日本国際部 山崎精一)
*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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なぜシアトルの地域労働組合評議会は警官組合を追放したのか?
アレクサンドラ・ブラッドベリー (レイバーノーツ共同理事長)
*デトロイト市でデモ警備する警察官
警察官の労働組合は労働運動に属しているのだろうか? 人種的正義と警察の暴力に反対する全国的な蜂起の中で、多くの組合員が口にしている疑問であり、シアトルがそのテストケースである。シアトル市とその近郊を含むマーティン・ルーサー・キング郡労働組合評議会(以下地評)の代議員は、6月17日にシアトル警察官ギルド(シアトルの警察官労働組合の名称:SPOG)を追い出すかどうかを決定する。
2つの決議案が追放を提起している。一つはシアトル南部の労働者階級の高いハイライン地区の教師組合が提案するもので、警官組合を全面的に追い出すことを要求している。地評の執行委員会は決議案を受け取ったが、まだ投票にはかけていない。
全米サービス従業員労組SEIU医療1199NWローカルと全米食品商業労組(UFCW)ローカル21が提出したもう一つ決議案は6月4日に可決された。その中で執行委員会は、警察ギルドに対し、6月17日までに一定の要求を満たさなければ追い出す、という最後通牒を設定した。
シアトルの労働運動の中で進歩的な勢力として知られるUFCWローカル21は、4月にようやく地評に加盟し、46,000人の組合員を擁する最大の加盟組織となった。また、デモ参加者に対する警察の暴力を理由に、シアトル市長のジェニー・ダーカンの辞任を求めている。
決議は、警察ギルドが地評の執行委員会と会談し、人種差別が法執行における問題であることを認め、人種差別を根絶し、「労働協約が正当な説明責任を果たす」ようにするために地評と協力することに同意することを要求していた。
●大転換
決議によると、6月17日までに要求が満たされなければ、委員会はその夜に開催される代議員会に除名決議を勧告するという。
2年前には地評は物議を醸した警察官の労働協約を支持するために記者会見を開いたり、市議会で証言したりしたが、それと比較すると地評の大転換である。
警察ギルドと地評執行委員会との会談は、まだ開催されていない。日付は設定されたが、その後、警察ギルドによってキャンセルされ、再スケジュールされている。
地評執行委員会で労働組合黒人連合(CBTU )を代表するクロード・バーフェクトは、難しい問題だが、警察ギルドを追放するほうに傾いている、述べた。
警察官がボディカメラを常にオンにしておくような改革を労働組合が要求すべきことを望んでいる、語っている。彼は自分の息子に、もし警察に止められたら手を挙げて見えるようにしておくように警告している。
警察の暴力は何年も前から問題になっている、と彼は語る。「しかし、トランプが警察国家にしようとして、さらにひどくなっている。警察にやりたい放題の権利を与えているようなもので、アメリカ全土で警察暴力がエスカレートしている」と語った。
「今は『お前はどちらの側にいるのか』と問う歴史的瞬間だ」と、ワシントン州労働組合評議会のエイプリル・シムズ書記長は言う。ワシントン州労働組合評議会はこの5年間、人種と労働についての内部対話を開始するように加盟組合に働きかけてきている。「警察組合にどちらの側につくか決める機会を与えることは重要な第一歩である。」
●"不幸な結婚”
全国的には、東部アメリカ作家ギルド (WGAE)が6月8日に、国際警察組合連合(International Union of Police Associations,IUPA)の除名をAFL-CIOに求めた最初の組合となった。北西部最大の警察組合であるSPOGはIUPAに加盟していない。
AFL-CIOのリチャード・トラムカ会長は、高まりつつある除名要求に慎重に対応している。トラムカ会長は、人種的正義について問われ、「突き放して、非難すれば済むわけではない」と答えた。「答えは、もう一度しつかりと警官組合を受け入れて、教育することである。」しかしシアトルでは、その試みはすでに行われており、結果は出ている。
SPOGは2014年にマーティン・ルーサー・キング郡労働組合評議会に加盟した。同地評執行委員会でプライド・アット・ワーク を代表するマイク・アンドリューは、「警官組合を加盟させれば、連帯感や労働組合の価値によって育くみ、その行動に影響を与えることができるかもしれない、というのが一部の人々の主張でした」と語る。
2年後、警官ギルドは初のアフリカ系アメリカ人の会長、ケビン・スタッキーを選出した。(前会長は、ダラス警察官の銃撃事件の原因はブラックライブスマター運動にあるとほのめかしたフェイスブックの投稿を理由に辞任していた)。スタッキー会長は地評の他労組との友好関係の醸成に努めた。 2018年、警察ギルドは市と物議を醸す労働協約を交渉した。地域活動家や労働運動の一部でさえも、警察官の規律に関する秘密主義や限界を理由に協約に反対していた。
しかし、地評は警察を支持した。地評の代表は公聴会で協約に賛成の証言をするために現れ、警察の暴力や人種差別を懸念する人々が詰めかけた部屋で唯一の警察支持者として発言したが、労働組合にとっては決して良い印象を与えなかった。
●自己防衛に走る警官組合
シアトル警察は2012年から、有色人種に対する過剰な暴力と偏見を理由に連邦政府の同意判決を受けている。2018年の労働協約がその同意判決に違反していると、という批判があり、昨年、連邦判事はそれに同意した。
それにもかかわらず、警察官の労働協約は市議会で可決され、社会主義者である市議会議員のクシャマ・サワントが唯一の反対票を投じた。シアトルでは、労働組合の支持が政治的な重みを持っている(ので可決された)。
一方、警察ギルドの組合員は、スタッキー会長の姿勢に不満だったようで、今年2月には強硬派のマイク・ソランを新会長に圧倒的に選出した。
ソランの選挙運動のビデオでは、デモ隊がブラックリブズマターの旗を持って行進している様子が映し出されており、暴動服を着た警官がデモ隊を攻撃する映像が続いている。「本気を出す時が来た」というのがメッセージ。SPOG副会長であるソラン候補は昨年の銃殺害事件の後で、殺害現場で記者会見して殺害した二人の警察官を擁護した。「警察官は今、不合理な基準で縛られている」と文句を言っている様子が映し出され、「シアトルの政治を動かしている反警察活動家の策略」を阻止することを約束している。
この男がブラックライブスマター運動を支持するのだろうか? 重要なのは、彼が実際に変革できるかだ。それは疑わしい
「警官ギルドは身から出たさびだと言える」とCBTUのバーフェクトは言った。「やりたいことは何でもできると思っているからだ」
(以下中略)
★6月18日の続報:
昨夜の氏名点呼投票で、マーティン・ルーサー・キング郡労働組合評議会はシアトル警察官ギルドを追放した。労働組合評議会に組合費納入している組合員数に比例して投票権が与えられ、投票結果は賛成45,435票、反対36,760票だった。追放決議の支持者数百人が昨夜のこのオンラインによる投票を見守った。先週、SPOGは労働組合評議会と会談し、人種差別が多くの機関に影響を与えている社会問題であることを認める書簡を発表していた。
警官は消防と並んで組織率が最も高い職種であり、その労働組合は様々な産別組合にも属しており、労働組合全体に大きな力を持っている。警官の労働組合はこれまでも一貫して加害警察官を守り、その処分に反対してきた。そのため労働組合全体は警官の人種差別に厳しい姿勢を取れないできた。しかし、今回は労働組合の中にも警官組合を批判する声が広がってきている。ワシントン州シアトルでは地域労働組合評議会が警官の労働組合を6月17日に除名した。(レイバーネット日本国際部 山崎精一)
*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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なぜシアトルの地域労働組合評議会は警官組合を追放したのか?
アレクサンドラ・ブラッドベリー (レイバーノーツ共同理事長)
*デトロイト市でデモ警備する警察官
警察官の労働組合は労働運動に属しているのだろうか? 人種的正義と警察の暴力に反対する全国的な蜂起の中で、多くの組合員が口にしている疑問であり、シアトルがそのテストケースである。シアトル市とその近郊を含むマーティン・ルーサー・キング郡労働組合評議会(以下地評)の代議員は、6月17日にシアトル警察官ギルド(シアトルの警察官労働組合の名称:SPOG)を追い出すかどうかを決定する。
2つの決議案が追放を提起している。一つはシアトル南部の労働者階級の高いハイライン地区の教師組合が提案するもので、警官組合を全面的に追い出すことを要求している。地評の執行委員会は決議案を受け取ったが、まだ投票にはかけていない。
全米サービス従業員労組SEIU医療1199NWローカルと全米食品商業労組(UFCW)ローカル21が提出したもう一つ決議案は6月4日に可決された。その中で執行委員会は、警察ギルドに対し、6月17日までに一定の要求を満たさなければ追い出す、という最後通牒を設定した。
シアトルの労働運動の中で進歩的な勢力として知られるUFCWローカル21は、4月にようやく地評に加盟し、46,000人の組合員を擁する最大の加盟組織となった。また、デモ参加者に対する警察の暴力を理由に、シアトル市長のジェニー・ダーカンの辞任を求めている。
決議は、警察ギルドが地評の執行委員会と会談し、人種差別が法執行における問題であることを認め、人種差別を根絶し、「労働協約が正当な説明責任を果たす」ようにするために地評と協力することに同意することを要求していた。
●大転換
決議によると、6月17日までに要求が満たされなければ、委員会はその夜に開催される代議員会に除名決議を勧告するという。
2年前には地評は物議を醸した警察官の労働協約を支持するために記者会見を開いたり、市議会で証言したりしたが、それと比較すると地評の大転換である。
警察ギルドと地評執行委員会との会談は、まだ開催されていない。日付は設定されたが、その後、警察ギルドによってキャンセルされ、再スケジュールされている。
地評執行委員会で労働組合黒人連合(CBTU )を代表するクロード・バーフェクトは、難しい問題だが、警察ギルドを追放するほうに傾いている、述べた。
警察官がボディカメラを常にオンにしておくような改革を労働組合が要求すべきことを望んでいる、語っている。彼は自分の息子に、もし警察に止められたら手を挙げて見えるようにしておくように警告している。
警察の暴力は何年も前から問題になっている、と彼は語る。「しかし、トランプが警察国家にしようとして、さらにひどくなっている。警察にやりたい放題の権利を与えているようなもので、アメリカ全土で警察暴力がエスカレートしている」と語った。
「今は『お前はどちらの側にいるのか』と問う歴史的瞬間だ」と、ワシントン州労働組合評議会のエイプリル・シムズ書記長は言う。ワシントン州労働組合評議会はこの5年間、人種と労働についての内部対話を開始するように加盟組合に働きかけてきている。「警察組合にどちらの側につくか決める機会を与えることは重要な第一歩である。」
●"不幸な結婚”
全国的には、東部アメリカ作家ギルド (WGAE)が6月8日に、国際警察組合連合(International Union of Police Associations,IUPA)の除名をAFL-CIOに求めた最初の組合となった。北西部最大の警察組合であるSPOGはIUPAに加盟していない。
AFL-CIOのリチャード・トラムカ会長は、高まりつつある除名要求に慎重に対応している。トラムカ会長は、人種的正義について問われ、「突き放して、非難すれば済むわけではない」と答えた。「答えは、もう一度しつかりと警官組合を受け入れて、教育することである。」しかしシアトルでは、その試みはすでに行われており、結果は出ている。
SPOGは2014年にマーティン・ルーサー・キング郡労働組合評議会に加盟した。同地評執行委員会でプライド・アット・ワーク を代表するマイク・アンドリューは、「警官組合を加盟させれば、連帯感や労働組合の価値によって育くみ、その行動に影響を与えることができるかもしれない、というのが一部の人々の主張でした」と語る。
2年後、警官ギルドは初のアフリカ系アメリカ人の会長、ケビン・スタッキーを選出した。(前会長は、ダラス警察官の銃撃事件の原因はブラックライブスマター運動にあるとほのめかしたフェイスブックの投稿を理由に辞任していた)。スタッキー会長は地評の他労組との友好関係の醸成に努めた。 2018年、警察ギルドは市と物議を醸す労働協約を交渉した。地域活動家や労働運動の一部でさえも、警察官の規律に関する秘密主義や限界を理由に協約に反対していた。
しかし、地評は警察を支持した。地評の代表は公聴会で協約に賛成の証言をするために現れ、警察の暴力や人種差別を懸念する人々が詰めかけた部屋で唯一の警察支持者として発言したが、労働組合にとっては決して良い印象を与えなかった。
●自己防衛に走る警官組合
シアトル警察は2012年から、有色人種に対する過剰な暴力と偏見を理由に連邦政府の同意判決を受けている。2018年の労働協約がその同意判決に違反していると、という批判があり、昨年、連邦判事はそれに同意した。
それにもかかわらず、警察官の労働協約は市議会で可決され、社会主義者である市議会議員のクシャマ・サワントが唯一の反対票を投じた。シアトルでは、労働組合の支持が政治的な重みを持っている(ので可決された)。
一方、警察ギルドの組合員は、スタッキー会長の姿勢に不満だったようで、今年2月には強硬派のマイク・ソランを新会長に圧倒的に選出した。
ソランの選挙運動のビデオでは、デモ隊がブラックリブズマターの旗を持って行進している様子が映し出されており、暴動服を着た警官がデモ隊を攻撃する映像が続いている。「本気を出す時が来た」というのがメッセージ。SPOG副会長であるソラン候補は昨年の銃殺害事件の後で、殺害現場で記者会見して殺害した二人の警察官を擁護した。「警察官は今、不合理な基準で縛られている」と文句を言っている様子が映し出され、「シアトルの政治を動かしている反警察活動家の策略」を阻止することを約束している。
この男がブラックライブスマター運動を支持するのだろうか? 重要なのは、彼が実際に変革できるかだ。それは疑わしい
「警官ギルドは身から出たさびだと言える」とCBTUのバーフェクトは言った。「やりたいことは何でもできると思っているからだ」
(以下中略)
★6月18日の続報:
昨夜の氏名点呼投票で、マーティン・ルーサー・キング郡労働組合評議会はシアトル警察官ギルドを追放した。労働組合評議会に組合費納入している組合員数に比例して投票権が与えられ、投票結果は賛成45,435票、反対36,760票だった。追放決議の支持者数百人が昨夜のこのオンラインによる投票を見守った。先週、SPOGは労働組合評議会と会談し、人種差別が多くの機関に影響を与えている社会問題であることを認める書簡を発表していた。