9日、埼玉県で軽症者100人が入院できず自宅療養させられているという報道が出て、世間を震撼させた。8日までに感染が確認された248人のうち約100人の入院先が調整できず、自宅療養を強いられていると言う。10日のモーニングショーで、自宅に留め置かれている感染者が取材され、深刻な実態が報道されたが、戦慄させられる内容だった。248人の感染者には保健所から入院要請が出されているけれど、病床不足のため入院できない。埼玉県が確保を計画していた225床のうち150床が未調整で、その結果、あぶれた感染者が自宅待機を余儀なくされている。もともと医療基盤が脆弱な埼玉県は、コロナ以前に県内に医療資源の余裕がなかった。今回、感染症指定医療機関分の75床が埋まってしまった後、他県 - 典型的なのは神奈川モデル - のように一般病院を調整してコロナ患者用の病床を増やすということができないまま現在に至っている。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16335122.png知事の大野元裕の無能と怠慢の誹りは免れないが、神奈川県と違って埼玉県には財政上の余力がなく、医療体制の前提が全く異なっている。疑問がわくのは、それならアパホテルや東横INNに支援をお願いすればよいではないかという点で、アパホテルは県内に3棟(新都心223室、東松山128室、西川口134室)を展開し、東横INNは同じく3棟(新都心227室、浦和美園245室、岩槻178室)を営業させている。ホテル側が快諾すれば、アパホテルで485床、東横INNで650床、合計1135床を隔離療養施設として確保できることになる。ところが、報道ではなぜかアパホテルも東横INNも名前が上がらない。逆に、埼玉県ホテル旅館生活衛生同業組合がコロナ病床の提供活用に二の足を踏み、消極的になっている事実が明らかにされた。対策の遅延と杜撰を憂慮する埼玉県民にとっては不可解な事態だが、どうやら根本的な問題は県の医師・看護師不足にあるようだ。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16311144.pngハードであるホテルの客室棟を確保できても、ソフトである医師・看護師を手当できないのである。宿泊施設に常駐して作業する医師・看護師の調達ができないのだ。一般病院の150床が確保できないのは、物理的なベッド数不足の以前に、コロナ治療に専任で担当する医師・看護師の数が足らないからだろう。コロナ襲来の以前に埼玉県は医療従事者が少なく余力のない状態だったから、彼らは、とても自ら診ている患者を放り出してコロナの宿泊施設に任務するということができない。すなわち、現時点で埼玉県は医療崩壊を起こしているのである。9日の報ステに出演した御用学者の中島一敏が、詳しくは触れなかったが、埼玉県の医療担当者が疲弊しているという情報を伝え、重症者を病院で診るという最低限の目標さえ困難になっていると漏らしていた。埼玉県は現時点で感染者数285人で、東京都の5分の1にすぎないが、このレベルですでに医療態勢が破綻してギブアップになっている。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16313836.png埼玉県はPCR検査数もきわめて少なく、相談依頼に対して検査を強力に絞ってきた。それは、入院させる病床がないことが第一の原因だったと考えられる。が、病床がないからと言って感染者を隔離せず自宅に留め置くと、今度は家族に感染が拡大する。家族は感染者を介護するためにも市中に出ざるを得ないから、家族が不顕性感染者になった場合は市中で経路不明の感染を連鎖させてしまう。そして、検査に消極的であるために市中の感染濃度はより高くなる。埼玉県の場合は、こうした負のスパイラルで隠れた感染者数が多くなり、潜在的な感染爆発の進行は他の都府県よりも危険な条件を抱えている。おそらく日本で最も早く、埼玉県で野戦病院の絵が現出するだろう。医療崩壊が可視化される。スーパーアリーナのような施設に感染者を詰め込み、簡易ベッドを大量に並べて収容するという、武漢やNYで見られた「医療」に移るだろう。限られた医療資源ではそれが最も効率的だが、その図こそ、医療崩壊を象徴する失態であることは言うまでもない。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16582648.png10日のモーニングショーでは、岡田晴恵が、もう体育館のような施設に入れるのでも構いませんから早く対処を、と言う場面があった。埼玉県に対して、ホテル隔離対応をしなくていいから、もう体育館収容をやってしまえと提案している。背中を押している。この発言は、埼玉県民の視聴者にとっては問題だろう。埼玉県民も、神奈川県民も、同じように、同じ制度の下で健康保険の保険料を払い、同じ税金を納めている。同じ憲法25条の権利保障を受ける日本国民だ。もう構わないから体育館収容してしまえと発破を掛ける前に、同じ日本国民なのにコロナの医療提供でここまで格差が出ていいのかと、対策の差別に釘を刺す留保の意見は出ないのだろうか。本来、地域間で不平等や不公平が出ないよう、厚労省が音頭をとり、医療資源を均等に配分する対策こそが求められていて、それこそが岡田晴恵や玉川徹が主張するべきことなのではないか。映画『翔んで埼玉』を地で行くような医療格差の実態と進行を、問題視せず、当然視する番組の論調には肯けない。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16320184.png気になるのは、岡田晴恵という人物の言説と役割である。この人は、2月初から一貫してPCR検査を増やせ、発熱外来を設置しろ、サンプリング調査で感染実態を把握しろと正論を言い、視聴者から支持されてきた専門家だ。御用学者ではない、市民の側に立って正論を言う数少ない専門家である。政府・専門家会議の誤った対策方針を批判し、視聴者から信頼を得てきた論者だ。だが、その一方で、注意深く言動を整理検証すると、ずいぶん間違ったことも平気で言い放ってきた。例えば、軽症者なら自宅で待機させろというのは、岡田晴恵が2月中にずっと言い続けてきたことである。自宅だと家族に感染リスクがあるのに、自宅だと隔離にはならないのに、そのことは無視し、自宅、自宅と、自宅待機が当然だと大きな声で言ってきた。隔離施設を病院とは別に用意しなければならないとは言わなかった。今はそれが当然になっているけれど、2月から3月中旬までは誰も言わず、玉川徹も言わず、岡田晴恵と声を合わせてきた。医療崩壊を防ぐ道は自宅療養だと言ってきた。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16323010.png岡田晴恵の主張や提言には、医療崩壊を防ぐという第一の動機と目的があるけれど、患者である国民の人権(憲法25条の平等な保障)という観点はきわめて弱い。彼女の言う「医療崩壊を防ぐ」という中身は、医師と看護師と病院を守るということであり、その点、専門家会議の御用学者の言う「医療崩壊を防ぐ」の意味と何ら変わらない。果たして、体育館に感染者が大量に詰め込まれて横たわる図が、国民にとって「医療崩壊が防がれている」図になるのだろうか。岡田晴恵は、医療崩壊を防ぐために、構わないから感染者を体育館に詰め込んでしまえと言い、間に合わないからそうしろと埼玉県を急き立てる。その言説は、実は、緊急事態において、国民の人権のレベルを一段一段と切り下げることを許容し、その行政措置の正当性を既成事実化する言説だ。むしろ先んじて、彼女が政府に代わって人権切り下げの処置断行を提唱し、真摯な言葉で国民を納得させている。岡田晴恵は、客観的にそういう言動者(扇動者)の役割を、かなり無自覚的に、悪意なく果たしていると言える。
丸山真男的に言えば、自ら先に敵側に陣地を譲り渡す愚を犯している。岡田晴恵が政府のやる過激な措置に先行的にお墨付きを与えている。なまじ、岡田晴恵が他と比べてまともな専門家であり、国民の立場に立って果敢に正論を吐く論者であり、国民に支持されているキャラクターだからこそ、彼女の言説は説得力をもって世論の中心軸に位置する。コロナ禍の言論の中で国民の共通認識となってしまう。そのことで、実は次々と、抵抗なく、パンデミック有事環境での事実上の国民の人権切り下げが受け入れられ、その既成事実化が着々と進んでいくことに、われわれは注意を向ける必要があるだろう。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16335122.png知事の大野元裕の無能と怠慢の誹りは免れないが、神奈川県と違って埼玉県には財政上の余力がなく、医療体制の前提が全く異なっている。疑問がわくのは、それならアパホテルや東横INNに支援をお願いすればよいではないかという点で、アパホテルは県内に3棟(新都心223室、東松山128室、西川口134室)を展開し、東横INNは同じく3棟(新都心227室、浦和美園245室、岩槻178室)を営業させている。ホテル側が快諾すれば、アパホテルで485床、東横INNで650床、合計1135床を隔離療養施設として確保できることになる。ところが、報道ではなぜかアパホテルも東横INNも名前が上がらない。逆に、埼玉県ホテル旅館生活衛生同業組合がコロナ病床の提供活用に二の足を踏み、消極的になっている事実が明らかにされた。対策の遅延と杜撰を憂慮する埼玉県民にとっては不可解な事態だが、どうやら根本的な問題は県の医師・看護師不足にあるようだ。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16311144.pngハードであるホテルの客室棟を確保できても、ソフトである医師・看護師を手当できないのである。宿泊施設に常駐して作業する医師・看護師の調達ができないのだ。一般病院の150床が確保できないのは、物理的なベッド数不足の以前に、コロナ治療に専任で担当する医師・看護師の数が足らないからだろう。コロナ襲来の以前に埼玉県は医療従事者が少なく余力のない状態だったから、彼らは、とても自ら診ている患者を放り出してコロナの宿泊施設に任務するということができない。すなわち、現時点で埼玉県は医療崩壊を起こしているのである。9日の報ステに出演した御用学者の中島一敏が、詳しくは触れなかったが、埼玉県の医療担当者が疲弊しているという情報を伝え、重症者を病院で診るという最低限の目標さえ困難になっていると漏らしていた。埼玉県は現時点で感染者数285人で、東京都の5分の1にすぎないが、このレベルですでに医療態勢が破綻してギブアップになっている。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16313836.png埼玉県はPCR検査数もきわめて少なく、相談依頼に対して検査を強力に絞ってきた。それは、入院させる病床がないことが第一の原因だったと考えられる。が、病床がないからと言って感染者を隔離せず自宅に留め置くと、今度は家族に感染が拡大する。家族は感染者を介護するためにも市中に出ざるを得ないから、家族が不顕性感染者になった場合は市中で経路不明の感染を連鎖させてしまう。そして、検査に消極的であるために市中の感染濃度はより高くなる。埼玉県の場合は、こうした負のスパイラルで隠れた感染者数が多くなり、潜在的な感染爆発の進行は他の都府県よりも危険な条件を抱えている。おそらく日本で最も早く、埼玉県で野戦病院の絵が現出するだろう。医療崩壊が可視化される。スーパーアリーナのような施設に感染者を詰め込み、簡易ベッドを大量に並べて収容するという、武漢やNYで見られた「医療」に移るだろう。限られた医療資源ではそれが最も効率的だが、その図こそ、医療崩壊を象徴する失態であることは言うまでもない。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16582648.png10日のモーニングショーでは、岡田晴恵が、もう体育館のような施設に入れるのでも構いませんから早く対処を、と言う場面があった。埼玉県に対して、ホテル隔離対応をしなくていいから、もう体育館収容をやってしまえと提案している。背中を押している。この発言は、埼玉県民の視聴者にとっては問題だろう。埼玉県民も、神奈川県民も、同じように、同じ制度の下で健康保険の保険料を払い、同じ税金を納めている。同じ憲法25条の権利保障を受ける日本国民だ。もう構わないから体育館収容してしまえと発破を掛ける前に、同じ日本国民なのにコロナの医療提供でここまで格差が出ていいのかと、対策の差別に釘を刺す留保の意見は出ないのだろうか。本来、地域間で不平等や不公平が出ないよう、厚労省が音頭をとり、医療資源を均等に配分する対策こそが求められていて、それこそが岡田晴恵や玉川徹が主張するべきことなのではないか。映画『翔んで埼玉』を地で行くような医療格差の実態と進行を、問題視せず、当然視する番組の論調には肯けない。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16320184.png気になるのは、岡田晴恵という人物の言説と役割である。この人は、2月初から一貫してPCR検査を増やせ、発熱外来を設置しろ、サンプリング調査で感染実態を把握しろと正論を言い、視聴者から支持されてきた専門家だ。御用学者ではない、市民の側に立って正論を言う数少ない専門家である。政府・専門家会議の誤った対策方針を批判し、視聴者から信頼を得てきた論者だ。だが、その一方で、注意深く言動を整理検証すると、ずいぶん間違ったことも平気で言い放ってきた。例えば、軽症者なら自宅で待機させろというのは、岡田晴恵が2月中にずっと言い続けてきたことである。自宅だと家族に感染リスクがあるのに、自宅だと隔離にはならないのに、そのことは無視し、自宅、自宅と、自宅待機が当然だと大きな声で言ってきた。隔離施設を病院とは別に用意しなければならないとは言わなかった。今はそれが当然になっているけれど、2月から3月中旬までは誰も言わず、玉川徹も言わず、岡田晴恵と声を合わせてきた。医療崩壊を防ぐ道は自宅療養だと言ってきた。
早くも埼玉県で露呈した医療崩壊の衝撃 - 岡田晴恵の言説の二重性_c0315619_16323010.png岡田晴恵の主張や提言には、医療崩壊を防ぐという第一の動機と目的があるけれど、患者である国民の人権(憲法25条の平等な保障)という観点はきわめて弱い。彼女の言う「医療崩壊を防ぐ」という中身は、医師と看護師と病院を守るということであり、その点、専門家会議の御用学者の言う「医療崩壊を防ぐ」の意味と何ら変わらない。果たして、体育館に感染者が大量に詰め込まれて横たわる図が、国民にとって「医療崩壊が防がれている」図になるのだろうか。岡田晴恵は、医療崩壊を防ぐために、構わないから感染者を体育館に詰め込んでしまえと言い、間に合わないからそうしろと埼玉県を急き立てる。その言説は、実は、緊急事態において、国民の人権のレベルを一段一段と切り下げることを許容し、その行政措置の正当性を既成事実化する言説だ。むしろ先んじて、彼女が政府に代わって人権切り下げの処置断行を提唱し、真摯な言葉で国民を納得させている。岡田晴恵は、客観的にそういう言動者(扇動者)の役割を、かなり無自覚的に、悪意なく果たしていると言える。
丸山真男的に言えば、自ら先に敵側に陣地を譲り渡す愚を犯している。岡田晴恵が政府のやる過激な措置に先行的にお墨付きを与えている。なまじ、岡田晴恵が他と比べてまともな専門家であり、国民の立場に立って果敢に正論を吐く論者であり、国民に支持されているキャラクターだからこそ、彼女の言説は説得力をもって世論の中心軸に位置する。コロナ禍の言論の中で国民の共通認識となってしまう。そのことで、実は次々と、抵抗なく、パンデミック有事環境での事実上の国民の人権切り下げが受け入れられ、その既成事実化が着々と進んでいくことに、われわれは注意を向ける必要があるだろう。