日本でいちばん最後まで
SLが走っていたその沿線から
さらに山奥へ入った開拓地が
ぼくの生まれ故郷だった
本屋も映画館も
公衆電話すらもなくて
立ち飲みできる雑貨店が
たった一軒きりのふるさと
人口よりも熊の方が多くって
「山へ行ってきた」と言うと
誰もが口々に
「よく熊に喰われんかったな」が決まりの挨拶だった
ときどきは
「熊に牛を喰われてしまったべさ」とか
「馬を喰われたべさ」とか
「山菜採りに行ったら熊とばったりだったべや」
冬といったら三メートル以上の雪で
雪の階段を降りてくと真っ暗な玄関があり
登下校はスキーを履いて
体育も遠足もまたスキー
昨夜の夢のなかでは
星空の下にひとりぼっちだった
壊れかけた枕木の柵の向こうには流れやまない海
その海を染めて昇ってくる新月
誰もが金魚みたいに
金魚鉢に映る不安と瓜ふたつになって
じぶんのこころの極北を
覗き込むしかなかった
SLが走っていたその沿線から
さらに山奥へ入った開拓地が
ぼくの生まれ故郷だった
本屋も映画館も
公衆電話すらもなくて
立ち飲みできる雑貨店が
たった一軒きりのふるさと
人口よりも熊の方が多くって
「山へ行ってきた」と言うと
誰もが口々に
「よく熊に喰われんかったな」が決まりの挨拶だった
ときどきは
「熊に牛を喰われてしまったべさ」とか
「馬を喰われたべさ」とか
「山菜採りに行ったら熊とばったりだったべや」
冬といったら三メートル以上の雪で
雪の階段を降りてくと真っ暗な玄関があり
登下校はスキーを履いて
体育も遠足もまたスキー
昨夜の夢のなかでは
星空の下にひとりぼっちだった
壊れかけた枕木の柵の向こうには流れやまない海
その海を染めて昇ってくる新月
誰もが金魚みたいに
金魚鉢に映る不安と瓜ふたつになって
じぶんのこころの極北を
覗き込むしかなかった