自然を食いものにする大企業の犯罪
16歳の環境活動家として一躍有名になったグレタ・トゥンベリが、経済の発展やお金のことばかり語り合って自然破壊や急激な気候変動を生みだしている世界の企業家や政治家たちに「恥ずかしくないんですか」と叱咤したことにわたしは感動した。
ここに彼女の危機意識を裏づける一本の映画がある。それは『グリーン・ライ~エコの嘘~』といういっけん地味なタイトルのドキュメンタリーだ。監督はオーストリアのヴェルナー・ブーテで、環境活動家、カトリーン・ハートマンと2人で世界のあちこちを旅しながら「環境にやさしい」をうたい文句に、うわべだけ取りつくろった商品やその生産現場の惨状を暴いている。目隠しされた自然破壊の実態をわたしたちにみえるように記録している。これに衝撃を受けないものはいないだろう。
2人はまずスーパーに出かけて食品表示に「持続可能」とうたう「パーム油」について問答する。パーム油は、安価で多くの食品に含まれているという。日本では、パーム油ではなく、「植物油脂」とあいまいな表示にしている。それで通用させているのだ。
では、この油の原産地はどうなっているのか? 2人はインドネシアのスマトラ島へ飛ぶ。島は一面緑緑したパームやしのプランテーションが広がっている。現地にはパームやし反対の運動をつづけている青年の事務所があって、2人はそこを訪れる。監督はやおらポケットからチョコボールを取り出して青年に差し出す。これを目にして青年は「気分が悪くなる」と首をふる。「これはインドネシア人の血なんだ」と。「パーム油の生産はある種の新植民地主義で、強制労働や低賃金労働をこの国にもたらしている」と語る。企業は、熱帯雨林を焼き払って住民の共同体をこわし、強制移住をしいている、とも。
2人は、青年の話を確かめるためにバリ島で開催している世界のパーム油会議に報道人として参加する。そこでは企業の幹部や農園主でもある政治家が集まって、会場は華やかな催しや展示物がいっぱい。何かの大臣が壇上から「インドネシアはパーム油産業のお陰で繁栄している」と高らかにアピールする。2人はパーム油生産のマーキンググループのCEOに「あなたの会社は焼畑していませんか?」と尋ねると「絶対にしていない。現場へいってみてくるといい」と断言する。
そこで2人は先の反対運動の青年とともにマーキングの農園の島に飛ぶ。ところが現場は、不法にも原生林を焼き払ったばかりで黒くこげた大地が広がっている。オランウータンの親子が煙に逃げまどうシーンもあった。インドネシアでは2015年に大規模な森林火災があり、そのとき多くの死者と煙害を出した。それは日本でもニュースとして流れたが、実は企業が自然災害のようにみせかけて人工的に焼いたものだった。――おいしいチョコレートのこれが裏の現実だ。
つぎに2人が向かったのはメキシコ湾内にある小島。そこは2010年4月20日、ブリテッシュ・ペトローリアム(BP社)が海底油田を掘削中に爆発が起こり、石油が大量に噴出した事件があった現場だ。いったい、石油まみれの海はいまどうなっているのか? いまも、それらしい櫓(やぐら)が砂浜から遠望できる。砂浜にはあちこち黒いタールボールがちらばっている。その原油の塊は有害物質と化して、素手でさわると危険だという。当時、原油は1日あたり1500万リットル、87日間にわたって噴出しつづけて海を破壊してきた。ところがBP社は「この事件は下請けと子会社が起こしたものだ」と。そして「責任をもって当社が回収します」と宣言。では回収したのか?
この島で“えび王”と呼ばれているエビの卸業を営んでいる男がいて、2人はかれの事務所を訪ねる。えび王はBP社のやり方に憤まんやる方ない、と怒る。海に浮かんだ原油は回収すれば、また自然が戻ってくる。でも回収すれば費用がかかるので、有害な化学物質を使って海底に沈めた、というのだ。それも深夜に飛行機で散布したと。かれは水揚げしたばかりのエビを水槽から取り出し、その黒い腹部をみせていう、「原油を吸い込んでいる」と。にもかかわらず、BP社のCEOはテレビで「3年前に原油はすべて除去した」とのたまっている。しかし、えび王は「石油会社のせいで海はすっかり汚れちまったよ」と嘆く。2人は顔を見合わせるしかない。
映画の後半――2人はドイツでテスラ社の電気自動車にのって高速道路を突っ走っる。が、そこにもごまかしがあって、「環境にやさしい」はずのリチウムの燃料のため自然(塩湖採掘)を破壊しているとか――。2人が車で向かうドイツ最大の石炭採掘場は、巨大な露天掘りで、粉じんが隣国にまで舞っているとか――。さらに2人はアマゾンに飛ぶ。食品企業はジャングルを焼き払い、先住民を村から追いだしたり殺したりして、牧場をつくり、大豆やとうもろこしをつくっている――。
環境破壊は地球規模にまで広がっている。資本主義の担い手である国際的巨大企業は、つぎつぎと自然を食いものにし、大地を虫食いだらけにして、人間と動植物の〈いのち〉をないがしろにすることで生きのびようとしている。それでいいのか。グレタの「恥を知れ!」の怒りを、映画ははからずも裏付けている。自然を破壊しなければ生きられない企業はもういらない――と宣言しよう。
映画は、2人の調査の旅のなかで「いまや体制全体の変革が必要だ」と訴えるノーム・チョムスキーとの対話も挿入している。新型コロナ騒動のなかでも、大企業の地球資源の略奪とそのための破壊は進行している。
※3月28日シアター・イメージフォーラム他全国順次公開
16歳の環境活動家として一躍有名になったグレタ・トゥンベリが、経済の発展やお金のことばかり語り合って自然破壊や急激な気候変動を生みだしている世界の企業家や政治家たちに「恥ずかしくないんですか」と叱咤したことにわたしは感動した。
ここに彼女の危機意識を裏づける一本の映画がある。それは『グリーン・ライ~エコの嘘~』といういっけん地味なタイトルのドキュメンタリーだ。監督はオーストリアのヴェルナー・ブーテで、環境活動家、カトリーン・ハートマンと2人で世界のあちこちを旅しながら「環境にやさしい」をうたい文句に、うわべだけ取りつくろった商品やその生産現場の惨状を暴いている。目隠しされた自然破壊の実態をわたしたちにみえるように記録している。これに衝撃を受けないものはいないだろう。
2人はまずスーパーに出かけて食品表示に「持続可能」とうたう「パーム油」について問答する。パーム油は、安価で多くの食品に含まれているという。日本では、パーム油ではなく、「植物油脂」とあいまいな表示にしている。それで通用させているのだ。
では、この油の原産地はどうなっているのか? 2人はインドネシアのスマトラ島へ飛ぶ。島は一面緑緑したパームやしのプランテーションが広がっている。現地にはパームやし反対の運動をつづけている青年の事務所があって、2人はそこを訪れる。監督はやおらポケットからチョコボールを取り出して青年に差し出す。これを目にして青年は「気分が悪くなる」と首をふる。「これはインドネシア人の血なんだ」と。「パーム油の生産はある種の新植民地主義で、強制労働や低賃金労働をこの国にもたらしている」と語る。企業は、熱帯雨林を焼き払って住民の共同体をこわし、強制移住をしいている、とも。
2人は、青年の話を確かめるためにバリ島で開催している世界のパーム油会議に報道人として参加する。そこでは企業の幹部や農園主でもある政治家が集まって、会場は華やかな催しや展示物がいっぱい。何かの大臣が壇上から「インドネシアはパーム油産業のお陰で繁栄している」と高らかにアピールする。2人はパーム油生産のマーキンググループのCEOに「あなたの会社は焼畑していませんか?」と尋ねると「絶対にしていない。現場へいってみてくるといい」と断言する。
そこで2人は先の反対運動の青年とともにマーキングの農園の島に飛ぶ。ところが現場は、不法にも原生林を焼き払ったばかりで黒くこげた大地が広がっている。オランウータンの親子が煙に逃げまどうシーンもあった。インドネシアでは2015年に大規模な森林火災があり、そのとき多くの死者と煙害を出した。それは日本でもニュースとして流れたが、実は企業が自然災害のようにみせかけて人工的に焼いたものだった。――おいしいチョコレートのこれが裏の現実だ。
つぎに2人が向かったのはメキシコ湾内にある小島。そこは2010年4月20日、ブリテッシュ・ペトローリアム(BP社)が海底油田を掘削中に爆発が起こり、石油が大量に噴出した事件があった現場だ。いったい、石油まみれの海はいまどうなっているのか? いまも、それらしい櫓(やぐら)が砂浜から遠望できる。砂浜にはあちこち黒いタールボールがちらばっている。その原油の塊は有害物質と化して、素手でさわると危険だという。当時、原油は1日あたり1500万リットル、87日間にわたって噴出しつづけて海を破壊してきた。ところがBP社は「この事件は下請けと子会社が起こしたものだ」と。そして「責任をもって当社が回収します」と宣言。では回収したのか?
この島で“えび王”と呼ばれているエビの卸業を営んでいる男がいて、2人はかれの事務所を訪ねる。えび王はBP社のやり方に憤まんやる方ない、と怒る。海に浮かんだ原油は回収すれば、また自然が戻ってくる。でも回収すれば費用がかかるので、有害な化学物質を使って海底に沈めた、というのだ。それも深夜に飛行機で散布したと。かれは水揚げしたばかりのエビを水槽から取り出し、その黒い腹部をみせていう、「原油を吸い込んでいる」と。にもかかわらず、BP社のCEOはテレビで「3年前に原油はすべて除去した」とのたまっている。しかし、えび王は「石油会社のせいで海はすっかり汚れちまったよ」と嘆く。2人は顔を見合わせるしかない。
映画の後半――2人はドイツでテスラ社の電気自動車にのって高速道路を突っ走っる。が、そこにもごまかしがあって、「環境にやさしい」はずのリチウムの燃料のため自然(塩湖採掘)を破壊しているとか――。2人が車で向かうドイツ最大の石炭採掘場は、巨大な露天掘りで、粉じんが隣国にまで舞っているとか――。さらに2人はアマゾンに飛ぶ。食品企業はジャングルを焼き払い、先住民を村から追いだしたり殺したりして、牧場をつくり、大豆やとうもろこしをつくっている――。
環境破壊は地球規模にまで広がっている。資本主義の担い手である国際的巨大企業は、つぎつぎと自然を食いものにし、大地を虫食いだらけにして、人間と動植物の〈いのち〉をないがしろにすることで生きのびようとしている。それでいいのか。グレタの「恥を知れ!」の怒りを、映画ははからずも裏付けている。自然を破壊しなければ生きられない企業はもういらない――と宣言しよう。
映画は、2人の調査の旅のなかで「いまや体制全体の変革が必要だ」と訴えるノーム・チョムスキーとの対話も挿入している。新型コロナ騒動のなかでも、大企業の地球資源の略奪とそのための破壊は進行している。
※3月28日シアター・イメージフォーラム他全国順次公開