〔解説〕2019年は全米自動車労組のGMストやシカゴ・ロサンゼルスの教員ストなどストライキが多発した年だった。2020年もシアトル市の病院労働者8000人のストライキが1月末に打ちぬかれた。(レイバーネット日本国際部 山崎精一)
*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
シアトル市で8000人の病院スト
スティーブ・レイ (SEIUローカル925退職者部)
*3日間のストに突入したシアトル市の病院労働者たち
9か月も成果のない交渉を続けた後、シアトル市のスウェーデン医療センターの8000人の病院労働者が1月28日から3日間のストライキにはいった。看護師から医療補助労働者から清掃職員までがストライキに参加した。労働組合はSEIU(サービス従業員労組)ローカル1199NWである。
このストライキは不当労働行為を巡るものである。組合によると、病院側は労働組合活動を理由に職員を解雇し、誠実交渉義務を果たしていない。
スウェーデン医療センターはアメリカ西海岸で最大で最も裕福な医療サービス会社、プロビデンス医療サービスの傘下にある。プロビデンス社は巨大な会社なので、このストライキの結果がこの地域の医療労働者の賃金と労働条件に大きな影響を及ぼすことになる。
交渉の焦点になっているのは人員配置問題である。スウェーデン医療センターでは欠員が900人あり、その結果職員には超過勤務による過労とストレスが溜まっている。看護師一人当たりの患者数は3人から5人が望ましいが、ここでは多くの看護師が7,8人を担当している。
経営側は全国的な看護師不足を理由に挙げているが、それでは看護師以外の欠員は説明できない。また看護師の正規職員を補充できないと病院は主張しているが、一方ではスト破りの看護師を見つけるのには苦労していない。
職員の話では、医療資材も一番安いもので済ませようとしている。患者には危険な小便器を設置したり、安い薬剤チューブを使って薬剤もれを起こしたりしている。
組合によるとスウェーデン医療センターは2015年から10パーセントベッド数を増やしているが、清掃職員の数は変わっていない。しかも、院内感染は驚くほど多い。
手術の準備担当の職員はこう語っている。「スウェーデン医療センターは地域の一員であるべきです。地域の人たちはここに来てまともな医療を気持ちよく受けていいはずです。しかし、今はそうなっていません。」
●見せかけだけの「非営利」
スウェーデン医療センターもプロビデンス社も非営利ということになっている。しかし、病院事業では非営利は表向きだけのことが多い。年間の経費支出より高い収入をあげることは認められている。スウェーデン医療センターはここ数年間、毎年10億ドルの利潤を挙げ続けている。いまや内部留保は110億ドルにもなっている。他の病院同様にさらに拡張しようとしている。その超過収入は手抜きと職員の低賃金により可能となっている。
病院がケチっていないのは理事たちの給与である。理事長は年収1500万ドル以上であり、他の役員も100万ドルを超えている。
●「蟻じゃないんだ」
欠員問題と安全問題以外にも、職員たちはまともな賃上げと付加給付の引き上げが得られるか心配している。組合は協約締結期間5年の間に23パーセントの賃上げを要求した。シアトル地域の生活費が高く、しかも上昇していることを考えると、この要求は妥当だと思える。しかし、経営側はその半分の賃上げ回答で対抗してきた。
資材担当のある職員が語ってくれた。「病院側はこの仕事は誰でもできると思っているけど、どんな仕事でも技術が必要だし、覚えるのに時間がかかるんだ。蟻じゃないんだ。」
もう一つ大きな問題は賃金差別である。清掃担当職員たちは、その部署では人種と性別による賃金差別があることを示す証拠を経営側に示した。
ストライキの一日目、病棟ごとに100人ずつのピケットラインができていた。ピケ隊が持つプラカードが足りない位だった。通りがかりの車がひっきりなしにスト支持の警笛をならし続けていた。また多くの住民がやってきてピケットに参加していた。
次の日は何千人もの隊列が市中心部に向けてデモをし、そこで他の組合の組合員たちと集会を行った。集会での看護師の発言では「私の部署では入れ替わりが激しく、いつも欠員です。12時間勤務の後に4時間の残業をしています。」集会には北アイルランドのUNISON労組からの連帯メッセージも届いた。
●2日余分にロックアウト
ストライキは1月31日朝7時半に終了した。ストライキ労働者たちは支持者に伴われて職場復帰しようとした。しかし、一部の労働者たちは3日後でないと職場に戻れないことが分かった。経営側が3日間のストライキなのに5日間の契約を1100万ドルでスト破り供給会社と結んでいたからである。このようにスト終了後もストライキ労働者をロックアウトして働かせないのは病院の短期のストライキではよく見られる。ストライキ労働者に対する見せしめの懲罰策である。
次はまた交渉の再開である。経営側が誠実に対応しなければ、組合は再度ストライキにはいらざるをえないかも知れない。
*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
シアトル市で8000人の病院スト
スティーブ・レイ (SEIUローカル925退職者部)
*3日間のストに突入したシアトル市の病院労働者たち
9か月も成果のない交渉を続けた後、シアトル市のスウェーデン医療センターの8000人の病院労働者が1月28日から3日間のストライキにはいった。看護師から医療補助労働者から清掃職員までがストライキに参加した。労働組合はSEIU(サービス従業員労組)ローカル1199NWである。
このストライキは不当労働行為を巡るものである。組合によると、病院側は労働組合活動を理由に職員を解雇し、誠実交渉義務を果たしていない。
スウェーデン医療センターはアメリカ西海岸で最大で最も裕福な医療サービス会社、プロビデンス医療サービスの傘下にある。プロビデンス社は巨大な会社なので、このストライキの結果がこの地域の医療労働者の賃金と労働条件に大きな影響を及ぼすことになる。
交渉の焦点になっているのは人員配置問題である。スウェーデン医療センターでは欠員が900人あり、その結果職員には超過勤務による過労とストレスが溜まっている。看護師一人当たりの患者数は3人から5人が望ましいが、ここでは多くの看護師が7,8人を担当している。
経営側は全国的な看護師不足を理由に挙げているが、それでは看護師以外の欠員は説明できない。また看護師の正規職員を補充できないと病院は主張しているが、一方ではスト破りの看護師を見つけるのには苦労していない。
職員の話では、医療資材も一番安いもので済ませようとしている。患者には危険な小便器を設置したり、安い薬剤チューブを使って薬剤もれを起こしたりしている。
組合によるとスウェーデン医療センターは2015年から10パーセントベッド数を増やしているが、清掃職員の数は変わっていない。しかも、院内感染は驚くほど多い。
手術の準備担当の職員はこう語っている。「スウェーデン医療センターは地域の一員であるべきです。地域の人たちはここに来てまともな医療を気持ちよく受けていいはずです。しかし、今はそうなっていません。」
●見せかけだけの「非営利」
スウェーデン医療センターもプロビデンス社も非営利ということになっている。しかし、病院事業では非営利は表向きだけのことが多い。年間の経費支出より高い収入をあげることは認められている。スウェーデン医療センターはここ数年間、毎年10億ドルの利潤を挙げ続けている。いまや内部留保は110億ドルにもなっている。他の病院同様にさらに拡張しようとしている。その超過収入は手抜きと職員の低賃金により可能となっている。
病院がケチっていないのは理事たちの給与である。理事長は年収1500万ドル以上であり、他の役員も100万ドルを超えている。
●「蟻じゃないんだ」
欠員問題と安全問題以外にも、職員たちはまともな賃上げと付加給付の引き上げが得られるか心配している。組合は協約締結期間5年の間に23パーセントの賃上げを要求した。シアトル地域の生活費が高く、しかも上昇していることを考えると、この要求は妥当だと思える。しかし、経営側はその半分の賃上げ回答で対抗してきた。
資材担当のある職員が語ってくれた。「病院側はこの仕事は誰でもできると思っているけど、どんな仕事でも技術が必要だし、覚えるのに時間がかかるんだ。蟻じゃないんだ。」
もう一つ大きな問題は賃金差別である。清掃担当職員たちは、その部署では人種と性別による賃金差別があることを示す証拠を経営側に示した。
ストライキの一日目、病棟ごとに100人ずつのピケットラインができていた。ピケ隊が持つプラカードが足りない位だった。通りがかりの車がひっきりなしにスト支持の警笛をならし続けていた。また多くの住民がやってきてピケットに参加していた。
次の日は何千人もの隊列が市中心部に向けてデモをし、そこで他の組合の組合員たちと集会を行った。集会での看護師の発言では「私の部署では入れ替わりが激しく、いつも欠員です。12時間勤務の後に4時間の残業をしています。」集会には北アイルランドのUNISON労組からの連帯メッセージも届いた。
●2日余分にロックアウト
ストライキは1月31日朝7時半に終了した。ストライキ労働者たちは支持者に伴われて職場復帰しようとした。しかし、一部の労働者たちは3日後でないと職場に戻れないことが分かった。経営側が3日間のストライキなのに5日間の契約を1100万ドルでスト破り供給会社と結んでいたからである。このようにスト終了後もストライキ労働者をロックアウトして働かせないのは病院の短期のストライキではよく見られる。ストライキ労働者に対する見せしめの懲罰策である。
次はまた交渉の再開である。経営側が誠実に対応しなければ、組合は再度ストライキにはいらざるをえないかも知れない。