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Channel: 詩人PIKKIのひとこと日記&詩
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もうじき卒業

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故郷の友から
なにもかもすべてを忘れてしまった頃に
きみの死を知らせる手紙が届く

北海道へ還ったら
真っ先に逢いたかったきみの死の知らが届く
その短い手紙の文末には
「お墓参りにいってやって欲しい」と

十年ぶりかくらいに
卒業写真の君の横顔に見とれながら
喉を焦がす火酒を飲干す

君と最後に話したのは
君が盲腸で入院し
見舞いに行った病院でだった

その窓から見えていたのは遠い水平線と
船などほとんど浮いてない港
工場街からの騒音を
ときどき切り裂く物悲しい汽笛

そっと君が尋ねる「柿食べる?」
「うんありがとう」
柿がたくさん皿に盛られてたから
たぶんそれは晩秋のことだった

柿を剥いている君の
指の一本一本を見つめずにはいられなかった
カーテンが揺れては
秋の陽射しが君の青白い頬を照らしていた

それからとんでもないことを言った覚えがある
「手術の時にやっぱり毛を剃ったんだべか?」
柔らな微笑みのまま
皮を器用に剥き続けるばかりのきみだった

退院祝いを手渡す時のきみの笑顔が
まともに見られないほどまぶしかった
それはもうじき卒業という初冬のことだった

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