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Channel: 詩人PIKKIのひとこと日記&詩
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   ポプラ並木

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ふるさとを見下ろす丘の上には
北大にあるよりもはるかに長大なポプラ並木が
山懐にぽつねんと開けた牧場を取り巻いていた

休日には牧場からの馬車がさびれた街へと降りていった
馬車の後ろの席の子供たちは誰もが薄汚れて
父親似のこずるそうな眼がときどき妖しく光った
牧場敷地内への無断立ち入り者を威嚇するための散弾銃が
その髭面の中年男のすぐ横で鈍く光った

ポプラ並木からの風景は雄大だった
牧場の牧草地越しに幾重の年輪のような潮目と船の軌跡
寂びれてゆくばかりのあわあわ霞む半島が見え
海峡を行き来する漁船やタンカーが退場してゆく

中学時代のある日
友人をその場所に案内したことがある
「君の家の横に流れる川の源流だよ」と指差すと
海と入り混じるあたりに一羽の海鳥が浮かんでいた
まるで落伍者坂口安吾の哀しみのような淡い絹雲と遠浅の海

背後の牧草地では
実を採るために植えられた胡桃の木の間を
牛たちが日がな一日のんびり草を食んでいる
彼らのほとんどとはすっかり顔なじみなので
牧草を食むのを止めない

渡り鳥が海峡を越えて南下してゆく秋
一群の栗鼠が枝から枝へ胡桃を抱えて走り回る
餌がなくなると殺しあう縞リスではなく蝦夷リスだ
谷の上に鎌のように昇った月明かりの中を
なんの迷いもなく虚空へと飛ぶ栗鼠の群れ

星がばら撒かれる頃には
人工衛星が蒼穹のはての海へと落ちてゆく
鋭い殺意を持て余した翳がゆるゆると動きだし
風にひるがえる海沿いの街へと下ってゆく

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