ぼくら兄弟は札幌へと向かうバスの中だった おばさんの家に寄っていく予定があったので 長い長いバスの旅の途上だった
洞爺湖からバスを乗り換えると 見慣れた顔の車掌さんが笑っていて 彼女が急に運転手に向かって 「この二人のバス代を私の給料から引いて下さい」と言った 思わず涙が溢れ出しそうになったけど 唇を強くかみ締めながら 「それは結構です・・」としか言えなかった
車窓の外には 雪化粧の森や丘が延々と続き 黄昏ゆく峠道には灯りの一つも見えてこない
すべての受験に失敗した僕は 両親になんとか懇願して 札幌の予備校に行く途中だった 弟はといえば 内地の会社に就職するために向かう途中だった
窓の外にはしばらく 陽を浴びて輝く洞爺湖と樹氷が見えていたが
車内で泣きじゃくりながら目覚めて ふっと車窓に目をやると そこは煌々と輝く北の首都札幌 駅前を白い息を吐きながら行き交う人々の群れだった